グループ企業のアセットを活かして生成AI時代のDXをリードする
※このコンテンツは、日経ムック『生成AI 協働・共生の時代』(日本経済新聞出版・2024年6月18日発売/監修・アクセンチュア 保科学世)より抜粋して作成したものです。
KDDIが掲げるサテライトグロース戦略。5G通信、Data Driven、生成AIを中心に、DX、金融、エネルギー、LXといった事業の拡大を進めている。
その中でDX領域を担うのがKDDI Digital Divergence Group(KDDHグループ)だ。
尖ったケイパビリティを持つグループ企業がワンチームとなって課題解決に取り組んでいる。
実務面でも優位な日本語AIを独自戦略で開発するELYZA
東京大学発のAI開発企業 日本語LLMのトップランナー
東京大学発のAI開発企業ELYZAは、大規模言語モデル(LLM) のトップランナーだ。その「日本語LLM」の性能は国内プレイヤーの追随を許さない。
ここ数年、話題にのぼるLLMの多くはアメリカ企業によるグローバルモデルだった。ELYZAでは、創業当初の2019年よりLLMの研究開発を開始し、継続的に投資を続けてきた。今年の3月には、日本語性能でGoogleのGemini 1.0 ProやOpenAIのGPT-3.5-turboを超えるなど、商用のグローバルモデルと遜色ないLLMを開発し、デモサービスとして公開した。
ChatGPTがリリースされたあと、それに対抗しようとしてモデル構築をゼロから行う組織もあったが、コストも時間もかかる。そこで、ELYZAは、すでにある程度学習されたオープンモデルに対しての追加学習(ポストトレーニング)に注力する戦略を採用した。
「用途に最適化したAIモデルを作成するには、ポストトレーニングによって出力を制御する必要があります。当社は、学習用のデータを内製し、学習結果を反映して改良するループを回してきました。そのため、質の高いデータと、ノウハウを持っています」と共同創業者であるCTO垣内弘太氏は言う。
実務には領域特化モデルのメリットが大きい
業務に用いる生成AIにおいて、必ずしも大規模な汎用モデルを使用するのが最適なわけではない。業界や企業ごとに特有の知識や表現、タスクが存在するため、それらの情報を学習させることが重要だ。小型のモデルに必要な情報を学習させ最適なモデルを作成することで、コスト削減や回答が出せるまでの時間を短くすることができる、というメリットもある。
ELYZAは、LLMの社会実装にこだわっており、クライアント企業の要望に応じて、業務領域に特化した日本語LLMを提供している。実際に30%以上の業務効率化を達成した事例を複数生み出しており、様々な業種から引き合いがあるという。
「生成AIは、インターネットやスマートフォンと同様に、社会のインフラとして我々の生活にとって『あたりまえ』になっていくと考えています。ELYZAでは、LLM及びLLMを活用したアプリケーションの社会実装を進め、企業の生産性を大きく向上させることに寄与してまいります」と垣内氏は意気込みを語った。
企業に眠るデータをビジネス成果に結びつけるフライウィール
フライウィール
プロダクトマネジメント部 部長
大附克年氏
ビッグテック出身人材の高度な技術とナレッジ
企業にとって蓄積されたデータをどう活用するかは、DXの成否に直結する重要課題だ。テキスト、エクセル、PDF、画像など、様々な形式で保存された社内データをどう活かすか。この難題を解決するのが、フライウィールのデータエンジニアリング技術だ。
フライウィールには、ビッグテックで活躍してきたエンジニアが多数在籍している。大規模なデータをどう格納し、どう扱うか、すぐれたナレッジがあり、精度の高い検索システムの構築にも長けている。
「データを価値ある形で活かし、人々のエネルギーに替えるのが、わたしたちのミッションです。複数の部署や企業にまたがる膨大なデータを一元化し、横断的に検索できるようにするのが、その第一歩。データ活用プラットフォームConataを用いて、データコネクティビティをスピーディに実現します」とプロダクトマネジメント部部長の大附克年氏は言う。
Conataには、統合されたデータを元に予測やシミュレーションを行い課題解決を支援する機能も搭載されている。拡張性の高さも魅力で、多くの企業で成果を上げている。たとえば、カルチュア・コンビニエンス・クラブが展開する蔦屋書店。生成AIでも使われているべクトル化技術を用いて算出した書籍類似度に基づく需要予測システムを構築した。その結果、実売率(販売業へ出荷されたうち実際に売れた本の割合)が20%ほど改善し、発注精度が向上したという。
検索拡張生成RAGで生成AIの活用を強化
フライウィールの持つデータエンジニアリング技術は、生成AIとの相性もよい。生成AIが回答を出力するときに、トレーニングデータ以外を参照するRAG(検索拡張生成)というアーキテクチャがある。RAGを用いることで、企業が持つ社内の情報や最新情報を参照し、出力によって業務を最適化できるのだ。データ処理技術と検索技術に秀でたフライウィールはこれも得意とする。
「KDDHグループに加わったELYZAは力強いパートナーです。ELYZAの日本語LLMと当社のデータ処理技術および検索の技術を用いてRAGを構成することで、効果的な生成AIソリューションが提案できるようになります」と大附氏は展望を語った
迅速で柔軟なアジャイル開発でプロジェクトを成功に導くKAG
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KDDIからスピンオフ経験豊かなDX推進企業
ELYZAやフライウィールといったグループ企業と連携し、「機敏」にクライアントの課題を解決するDX推進企業がKDDIアジャイル開発センター(KAG)だ。KDDIが提供しているサービスを開発していた部署がスピンオフしたものだ。
社名にもある「アジャイル開発」とは、小さな単位で設計・実装・テストを繰り返し、プロダクトを成長させていく開発手法だ。ウォーターフォール開発に代表される従来の手法と比べ、ユーザーニーズを取り入れながら短期間で開発を進められる。
KAGでは下図のようなサイクルをなぞってプロジェクトを進めていく。リーンスタートアップのフェーズでは、ミニマムなサービスデザインでプロトタイプを動かし、そこで得た気付きを反映する。開発に入ると、コミュニケーションを通してビジネス価値を高めていくスクラムのフレームワークで、やはり短期間でサイクルをまわしていく。
「アジャイル開発は機動力の高い手法です。実際に手を動かすことで、ユーザーの要望をクイックに検証し、市場動向を柔軟に反映できます。かつては、要件をじっくり定義し、開発して数年後にリリースしましょうという進め方もありましたが、世の中の変化についていけなくなっています」と開発戦略本部長の岡澤克暢氏が説明してくれた。
KAGのアジャイル開発は、サービスデザインのパートがセットになっているのが大きなポイントだ。
「従来型のシステム開発では、上流工程に当たる要件定義やサービス設計をお客様が行っていました。当社では、専門のサービスデザイナーがお客様といっしょにワークショップをしながらサービスデザインを進めます。このとき、検討用のフレームワークを用いるので、アイデアの長所や課題が明確になります」とテックエバンジェリストの御田稔氏。
また、開発プロセスのどの段階でつまずくかは、プロジェクトによりまちまちだ。そのため、KAGはどの段階からでも支援に入れるという。
「ビジネスデザインを考えてみたものの実現性に乏しくて次のステップに進めないケースや、開発に入ってから頓挫するケースもあります。ご相談いただければ、どの段階からでもサポートします」とソフトウェアエンジニアの岸田正吉氏が言う。
伴走支援でクライアントの内製化スキルを育てる
アジャイル開発を標ぼうする開発会社は少なくないが、KAGには他社にない強みがある。
「10年以上、KDDIでシステム開発を担い、たくさんの経験をしてきました。ですので、これからお客様が出会うであろう状況の予測がつきます。日本の大企業はこういうところでつまずいているんです、こうなりそうですという実践知から、失敗や難局に先手を打つことができます」と御田氏。
そして、社内にエンジニアがいないためにDXが進まない企業があることから、KAGは伴走支援も重視しているという。
「たとえばお客様3人、KAGから5人といったスクラムチームで開発を進めるのですが、共創共育をテーマに、お客様の社内にエンジニアやプロダクトオーナーが育つように取り組んでいます。生成AIのような新技術を活用するには、社内で軽いフットワークで内製開発できる組織が強いです。システムやサービスの内製化スキルを身に付けていただけるように進めます」と岡澤氏。
生成AIに関しても新しいキーワードが毎週のように出てきて、計画立案中にゲームチェンジすることもある時代だ。時間をかけて考えるよりも、自分たちで素早くつくって試し、ユーザーのフィードバックを受け、改善サイクルを回すことが肝要なのだそうだ。
KDDHグループで連携し生成AI導入やDXを支援
KAGは社内に40ものチームがあり、Webサービス、スマホアプリ、IoT、XR(クロスリアリティ)など、幅広い領域で実績を重ねてきた。各種クラウドにも通じており、様々な要望に対応できる。
「生成AIを試したいという相談をたくさんいただきます。では、生成AIを入れれば満足していただけるかというと、そうではありません。背後に組織課題やエンジニアの内製化といった別の問題が隠れているからです。まずサービスデザインや業務整理から始め、『お客様が本当にやりたいのはこういうことではありませんか?』と言語化することを大切にしています 。その上で生成AIも活用していくと、より効果や価値を実感していただけます」と岸田氏。
KAGのエンジニアは新しい技術の習得にも熱心だ。AWSに精通したエンジニアが多いとのことだが、OpenAIの普及を受けてAzureエンジニアも増加している。さらに、生成AIを提案するなら自分たちがまず生成AIを業務に活かすべきだと考え、実際に業務に導入している。
「生成AIを使ったチャットボットや、ビジネスアイデアを千本ノックのように出してくれるもの、ターゲットとなるペルソナを提案するものなどをつくりました。エンハンスの可能性を議論しながら役立てています。今は、アジャイル開発の各工程を改善するために生成AIをどう使えばよいかにチャレンジしています」と御田氏。
日本語LLMのELYZAやデータエンジニアリングのフライウィールとシナジーを発揮し、KAGはこれまで以上にクライアントの課題解決と価値創出を実現していくだろう。生成AI時代をリードするKDDHグループの存在感は大きい。
ELYZA 取締役CTO
垣内弘太氏